探偵は過度に死んでいる

2021/12/12

 

 あの丘を、越えようと思っていた。白い円筒の建物は蹴りたい。風の気配を感じ取って消毒を忌避したのだった、そのような、あえて防がない目的の服。売っているが、欲しいわけではない幸運の数々。

 余り物にはないものを探していた。ずっと、きっと、明日から今日まで失っていた拾得物を横領した。っていう記憶は、うん。ないんだったな。ないことに、したんだった。忘れるより罪なことはないんだった。

 物は岩のようにも、あるいは文法のようにも、触ることができる。のに、疑ったばかりに、あなたの生殖器官、すべっすべの、きやっきやで、損だよ。得ばかりしている誰かを憎むより眼の前のお祈りだよ。

 いつも窓から見ていた円筒の白さを、給水塔に見紛ったのは僕だ。

 あなたが誰よりも殺傷能力だった当時からの僕状の固形物だ。

 夢の中の寝言だったオリジナル言語を許可なく翻訳された朝。間違ったそれを、誰が、確かめるというのか。誤解は常に天然水みたいな凄惨。カリッ。ふわもち〜。いった、だっき、マウス。過度に死んでいる。

 チのような色をした消毒液が二階から滴っている。それを艶のない子供が意図的にみだりに。

 あーあ。

 もう取り返しがつかないのに。

 

 すべての小説は推理小説である、という言い方はある意味可能で、そもそも一人の人間の人生が謎だらけなのだから解き明かすためには推理が必要になる。作中の人物らは架空だ。が、非実在青少年らとて、人生は人生である。それらを描き出そうとするのならばサスペンスは必然だ。

 そこで、読者は探偵になる。いや、作者すら、探偵にならざるをえない。作者は神様ではない。一見矛盾するようだが、作者はそれを書いている当人でありながら、同時に、登場人物らの謎を解き明かそうと四苦八苦している。作品の規模によっては、八苦のみならず十二苦ぐらいはするかもしれない。

 

 2021年、改めて数えてみると合計で5作品、原稿用紙換算で650枚ほど書いた。特別多いわけでもない、というか、むしろ少ないほうかもしれない。でも自分としてはよく頑張ったと思う。5作品、多種多様だったがそれぞれにいいところがあった(悪いところもあった)。来年もガリガリと精力的に書いていきたい。