焼け石に星

2021/10/21

 日記、と一口に言ってもただ事実を書けばいいわけではなく、特にいま書いているこれはこうして公開しているわけだから、作為そのものだ。そもそも、一分の隙もない完全ノンフィクションとしての日記、は、言語の持つ機能不全性からしてありえない。見たものをありのままの姿で、写実主義とまではいかないまでも自然主義の範疇で、文字に起こせると考えているのならそれは大いなる思い違いだ。

 日記を公開する、ということの気恥ずかしさに無頓着であることなど到底できそうもない自意識の持ち主たる私(わたくし)が、あえてそれを加速装置として利用した結果生まれたのがいわゆる異常日記と呼ばれる方式で、極端なことを言えばあれらは1パーセントの事実と99パーセントの粉飾によって練り上げられた偽物の塑像だ。

 ここで言う気恥ずかしさ、とは言い換えれば自信のなさ、でもあるわけで、ありのままの自分を受け入れてもらえるはずがないという諦め、というより、僕が僕のまま文章書いても読む価値ないっていうか元々の人間がつまらないんだからそいつがそのまま書いてもA=BそしてB=CならばA=C、要するに、そういうことですよね?的な、自虐に見せかけた超真正かまってちゃん的ひねくれ、があるから、どうしてもパフォーマティブになる。素の自分を隠蔽するための言語使用になる。魅せるための日記ならば、事実である必要がなくなる。

 まあ、それはそれとして、日記を書くのは面白い。これは本当のことです。今日はスーパーマーケットへ買い物に行った。寒いから体の温まるものがいいと思って、焼け石を、買いました。買いマスター。それを今夜飲み込むのだ。熱々のそれを。なんていうふうに書くとほーらまた始まった、照れ隠しのためのボケはいいから普通に書いてくださいよ、あなたのいつもの生活を、いつもどおり、普通に書けば、いいんですから。つまらないなんて言う人はいませんから。と、言ってくれたはずの人を僕は焼け石に水だった。涙では、なかった。鮮血だった。

 ところで、ひきこもり、って言葉あるけど、むしろ、ひきこもられている。ので、「ひきこもられり」だ。正確には。ラ・リ・ル・レ・ロ。そういえば、「な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い」っていうゆらゆら帝国のライブアルバムがあって、第一次ひきこもり期(15歳夏〜16歳冬の半年ほど)によく聴いていたなあ、といまふと思い出した。別に、こういうのでいいんですよね。日記って。その時々に思ったことで。歪曲したり粉飾したりしなくても。

 星が降るらしいよ。今夜。

 あなたが地球人なら、見られるチャンス、あるかもね。